日本軍の毒ガス兵器・書評


日本軍の毒ガス兵器

『歴史地理教育』(2005年7月号)

●「読書室」

評者:宮崎教四郎・千葉県歴教協

 旧日本軍の毒ガスについては、歴史研究者による厖大な資料収集と綿密な分析の蓄積がある。本書の著者は高校生時代からこの問題に関心を抱き、とくに防衛 庁が管理している旧軍関係資料の発掘で大きな貢献をされてきた。さらに広く軍事史にも及ぶ研究の成果が本書に集約され、日本軍の毒ガス問題の全体像とその 核心が明らかにされている。

 第1章から第6章まで、毒ガス兵器の研究と開発、製造と教育、労働災害と市民の防毒訓練、国際禁止条約と日本の対応、日中戦争から太平洋戦争期の毒ガス 戦の展開へ、日本軍の毒ガスの歴史が、綿密に構成されている。そして、第7章で「なぜ日本軍は毒ガス兵器に依存した戦いをおこなったのか」と、第二次大戦 期、日本が世界で唯一の毒ガス使用国となった理由が追及されている。

 著者の論点は、日本陸軍は侵略した中国の大地で、報復の恐れがない相手に対して、国民党正規軍には奇襲・白兵戦の補助手段として、ゲリラ(八路軍)には 周辺の住民を含め徹底的なじん滅作戦の手段として、毒ガスを使用した。毒ガス使用の命令は、参謀本部が立案し、天皇が統括する大本営から発せられたが、使 用を禁止する国際法を意識し、国際的制裁のリスクも視野にあるが、これを軽視し、戦争不拡大方針の挫折、兵士の劣化、戦闘の激化に引きずられて毒ガス依存 を深めていった。その根底には、日露戦争以来変わらぬ機動力・砲兵力の低さ、銃剣突撃中心の軍事思想があったことを論証している。

 最後の第8章「戦後史のなかの毒ガス問題」では、日本敗戦による毒ガスの廃棄・遺棄が旧軍の証拠隠滅と戦後防衛庁による証拠資料の秘匿によって、国内と 中国の両面で多くの被害を生んだ経緯が綿密に論証されている。巻末に記載された、旧軍関係の厖大な資料リストにもかかわらず、歴史資料の公開が不十分だと いう。著者の旺盛な研究心に敬服する。

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